すきっ歯の定義

すきっ歯は、いわば俗語であり、矯正学ではこれを、歯間離開あるいは空隙歯列と言っています。歯列不正の一つの類型です。しかし、矯正学で使用するこれらの専門用語と、俗語であるすきっ歯とは、完全に一致しているとは思えません。
一般に使用しているすきっ歯とは、外から見える歯と歯の隙間全般を指していて、外から見えない奥歯については、すきっ歯とは言っていません。この点がまず、矯正学の専門用語とは異なります。
また、ブラックトライアングルや矮小歯も、一般にすきっ歯として治療を希望されますが、これらは、歯の形の問題であり、歯列不正には当たらないので、歯列不正の一類型である歯間離開には含まれません。
したがって、すきっ歯とは、コンタクトポイントが離開している歯間離開のみにとどまらず、歯列不正ではないブラックトライアングルや矮小歯のように、歯と歯の間の隙間が外から見て気になるケースをすべて含んだ概念であると定義されます。

すきっ歯の原因について

すき歯の原因について、学説をベースにしつつも、臨床経験を踏まえて、解説します。ホームページにたくさん見られるような、教科書の丸写しではないので、すきっ歯の患者さんにとって、役立つ内容になっています。

すきっ歯の原因

①舌癖・口唇癖

舌の先を前歯の裏側から押しあてる癖がある人は、その前歯がフレアーアウトして、隙間ができます。
下唇を噛む癖がある人も、上の前歯を外側に押し出す力が働き、すきっ歯ができます。
これらの悪習癖は、すきっ歯を作る大きな原因になるとともに、すきっ歯を治した後も、後戻りする最大の原因になります。
すきっ歯の治療にあたっては、この悪習癖があるかどうかを確認し、ある場合はそれを治すよう指導しなければなりません。
それをしないで放置すると、100%後戻りします。

臨床経験から、すきっ歯の原因の80%以上が、舌癖を原因としていると思います。したがって、すきっ歯に対し、どの治療法を選択しても、後戻りのリスクと、その防止策を考えて、治療を行うことが必要です。これを考慮しないで、すきっ歯をとりあえず治して終わりとする歯医者が、非常にたくさんいます。
すきっ歯治療後の後戻りについてはこちら

②歯の横幅の合計より口の幅の方が大きい場合

歯が小さすぎたり、逆に口が大きすぎたりすると、歯と歯の間に隙間ができます。
このケースでは、隙間は一か所ではなく、複数の隙間が、不規則にできることが多いです。

③先天性欠損があって、歯の数が少ない場合

この場合には、欠損部に隙間ができることが多いです。また、その近くの歯に隙間ができることもあります。

④歯の形が小さいためにすきっ歯になる場合

矮小歯がこの場合の典型です。矮小歯の左右両方、または、片方がすきっ歯になります。

⑤歯の捻転や遠心傾斜によりすきっ歯になる場合

歯が捻転すると、扉が開くように、歯と歯の間が開いて、すきっ歯になります。
遠心傾斜では、歯の先端部が開いて、すきっ歯になります。逆に、近心傾斜すると歯の根元が開き、ブラックトライアングルができます。

⑥歯列矯正に際し抜歯をしたケースで、矯正後の後戻りをした場合

これについては、すきっ歯の原因として、どのホームページにも書かれていません。豊富な臨床経験からのみ、気づくことができます。抜歯矯正をしたとき、抜歯の隙間を埋めるため、前歯を舌側に引っ込めますが、これが大きすぎると、舌圧により前方へ後戻りを生じ、前歯のすきっ歯となるのです。抜歯矯正をする人は、十分注意してください。矯正医のほとんどは、この点について、無責任です。

⑦歯周病

歯周病が進行すると、歯がフレアーアウトして、すきっ歯になることがあります。
また、歯周病の治療により、歯間鼓形空隙が広がり、すきっ歯の一つである、ブラックトライアングルができることもあります。歯周病がある場合は、すきっ歯の治療の前に、歯周病を治療することが不可欠です。

⑧上唇小帯低位付着

上の前歯の正中に、すきっ歯を作る原因として、上唇小帯低位付着を上げる歯医者が多数います。これは、教科書に書いてあるため、それを鵜呑みにしているだけです。百歩譲って、これがすきっ歯の原因になっているとすると、低位付着により、歯間乳頭が大きく発達し、前歯を両サイドに押し広げている場合のみです。理論的には、この場合のみすきっ歯の原因となりうるでしょう。

しかし、上唇小帯低位付着があり、歯間乳頭が大きな人でも、すきっ歯になっていない人がかなりいます。臨床でこのような症例をたくさん見てきたことから、今では、上唇小帯低位付着は、すきっ歯の原因ではないと考えるようになりました。

歯医者に行って、上唇小帯がすきっ歯の原因になっているから、切除しましょうと言われても、断るほうが賢明と思います。

上唇小帯低位付着の症例写真
上唇小帯低位付着の症例写真

典型的な上唇小帯低位付着の症例です。見事にすきっ歯になっています。このような症例を見た、昔の歯学博士が、上唇小帯低位付着をすきっ歯の原因と発表したのかもしれません。この説が、いまだにまかり通っています。本当にこれが原因なのかと疑っている人は結構いると思いますが、敢て反論しても自分にメリットがないので、黙認しているのかもしれません。上唇小帯低位付着がどのようなものか知らない歯医者もいて、すきっ歯を見ると正常な上唇小帯であるにもかかわらず、上唇小帯低位付着と誤診する歯医者もいるようです。この病名を理由に、決して小帯切除などしないでください。参考までに、この症例のすきっ歯治療の術後写真を掲載しておきます。

術後
術後
<治療説明>
上唇小帯を切除することなく、すきっ歯をダイレクトボンディング法で閉じました。小帯が少し圧迫されているように見えます。2020年1月の治療なので、経過はまだ分かりません。
<治療費>
44,000円(税込)
<治療期間>
1日
<リスク・注意事項>
こちら

(上唇小帯低位付着を伴うすきっ歯の治療症例・10年の経過例)

術前 術前
術後 術後
<治療説明>
2010年5月17日の治療です。上唇小帯低位付着により歯間乳頭が発達し、正中離開を引き起こしているように見えます。もしそうなら、上唇小帯切除術を行ったうえで、すきっ歯の治療を行わなければ、すぐに後戻りするはずです。この症例では、切除術を行わないで、このまま、ダイレクトボンディング法ですきっ歯の治療を行いました。歯間乳頭をかなり圧迫して、隙間を閉じたので、かなり傷ついていますが、これも30分程度で綺麗になります。
<治療費>
44,000円(税込)
<治療期間>
1日
<リスク・注意事項>
こちら
術後約1年 術後約1年
術後約10年 術後約10年
<説明>
検診にずっと来ていただいている患者さんなので、10年後まで経過を追えています。
術後1年の写真は、2011年4月13日、検診時の状態です。後戻りはありません。
歯間乳頭をかなり圧迫しているように見えます。
上唇小帯低位付着はそのままです。
術後10年の写真は、2020年9月3日の検診時の状態です。すきっ歯の治療から10年以上経過しましたが、後戻りはありません。歯間乳頭は少し大きくなっているように見えますが、それでもすきっ歯にはなっていません。
これは、上唇小帯低位付着および、これに伴う、歯間乳頭の発達は、すきっ歯の原因ではない証拠と言えるでしょう。
⑨頬杖をつく癖

頬杖をつく側の歯列が狭窄歯列になりますが、これが原因で、すきっ歯になることはほとんどありません。むしろ、叢生の原因になる可能性のほうが高いです。狭窄歯列とすきっ歯が併存することはありますが、この場合は、頬杖をつく癖のほかに、すきっ歯になる原因があって、すきっ歯になっているだけです。

すきっ歯を放置するとどうなるの?
(嘘だらけのホームページに注意してください)

通常、次の3つが挙げられています。①虫歯や歯周病になりやすい。②サ行の発音がしづらく、発音が不明瞭になる。③しっかり噛めないため、胃腸に悪い。

私は、2000人以上のすきっ歯の治療にかかわってきましたが、すきっ歯の患者さんに、平均以上の虫歯や歯周病は見られませんでした。むしろ、虫歯は少ないというのが実感です。
叢生は虫歯や歯周病のリスクが高くなりますが、すきっ歯は、歯と歯の間が空いているため、かえって食べ物が詰まりにくく、かつ、歯ブラシによる清掃がしやすいのです。唾液による洗浄作用も、すきっ歯の方が有効です。したがって、①は全く誤りです。

②については、すきっ歯の患者さんと話してみて、まったくそのようなことはありませんでした。念のため、すきっ歯の患者さんに、サ行の発音をしていただきましたが、全く普通でした。さらに、発音しにくいですかと聞いてみましたが、そのようなことを感じたことはありませんというのが、すべての患者さんの回答でした。②を書かれた歯医者は、すきっ歯の患者さんを診察したことがなく、何かの文献か、他の歯医者が書いたことを丸写ししているだけと思います。(ただし、歯が欠損していて、丸々1歯分の隙間が空いている場合は、多少発音しづらいかもしれません)

③は、奥歯のすきっ歯については当てはまるかもしれませんが、すきっ歯という言葉は、実際には前歯について使われます。奥歯の歯にすきっ歯という表現をする人は通常いません。前歯にすきっ歯があっても、噛むのに不自由している人はいませんので、③も事実上誤りです。

以上から、すきっ歯を放置しても、機能上・健康上は問題ありません。
見た目を治すことが、すきっ歯の治療の、唯一最大の目的と言っていいでしょう。